何かを得る為には、逆にそれと同等の代価を犠牲にしなければならないのだという。
ならば、努力という代価を支払えば、それと同等の何かを手にいれられると、僕は信じていた。
(`・ω・´)「いいかショボン? お前はこのバーボン家の大事な一人息子だ。
だから、頑張って勉強して努力して、いい学校に行き、精一杯学び、
そして、私の跡を継ぎなさい。いいね?」
父にそう教えられ、僕は幼少の頃から勉強漬けの毎日を過ごした。
そして、多くの知識を手にいれた。が、その代わりに学校の友達とは仲良くなれなかった。
成る程、これが代価なのだろう。僕はそう思った。
そして、それと同じ風に小中高と学生生活を過ごし、
十八の時、僕はこの国で最高峰と言われる大学に首席で入学することが出来た。
その代わりに、周りの人から色々妬みを買った。
成る程、これが代価なのだろう。僕はそう思った。
大学では経済学を学んだ。
将来、父の会社を継ぐ為に必要だと考えたからだ。
僕はそこで一人の女性に出逢った。
川 ゚ -゚)
彼女クーは同じ学部の同級生で、僕に次ぐ成績でこの大学に入学した秀才だった。
今思えば、完全に僕の一目惚れだった。
そして、その日から僕は彼女に経験皆無で拙いながらも積極的にアプローチをしかけた。
その甲斐あってか、大学二年の夏に僕は彼女と恋人同士になることが出来た。
ある意味それが、初めて僕自身が望んで手にいれたものだった。
その後、僕は大学を卒業し、父の経営する企業に就職した。
当初は親の七光りだなんだと、周りに揶揄されたが、僕はそれを実力で見返した。
様々な企画案を提出し、書類を作成し、人と人の間を渡り歩き、プロジェクトを幾つも成功させた。
これが、今までの努力により手にいれた僕の力なのだと、そう思った。
入社から数年し、職場にも慣れてきた所でクーと籍を入れた。
その数年後には、子宝にも恵まれ娘が生まれた。
僕は様々な幸せをこの手にいれることが出来ていた。
そして、年月は流れ、遂に僕自身が会社の経営に乗り出す時が来た。
社長であった父が退き後継として僕を指名した。
生まれた時から既に命運付けられていたことだったが、僕は何とも感慨深い気持ちになった。
だが、それからの日々は、悪戦苦闘だった。
経営業というものは、今まで一社員であった僕のこなしていた業務とはかなり違い、激務であった。
会社のことを把握し、そこに働く社員のことを把握し、そして他の会社との兼ね合いも考えなければならない。
知識と力は持ち合わせていたが、余りにも慣れない事なので、なかなかに苦労した。
家に帰れない日が、何日も何週間も続いた。
そんなある時だった。
妻であるクーが余りにも不意な事を持ち掛けてきたのだ。
川 ゚ -゚)「……別れてくれ」
僕には何が何だか分からなかった。何故だ?
僕にはお金だって、知識だって、力だってある。何より君を愛している。
僕は君が居たから、今の今まで仕事を頑張って来れたんだ。
なのにどうして……。
川 ゚ -゚)「すまない、だがもう無理なんだ。育児に追われ、日々を浪費し、位の高い家柄の生活に窮屈し、
そして何より、ずっと貴方と会わなくなったことで、私の中の愛は醒めてしまったんだ……すまない」
それから暫くして、クーは出ていった。
呆然とする僕と、まだ幼い僕たちの娘を残して。
そして、僕は途端に彼女が憎くなった。
身勝手じゃないか。そんな急に掌を返した様なその態度。
娘だってまだ小さいんだ。僕だってまだ完璧に会社を運営しといけているわけじゃないのに。
今が一番大変で、夫婦で協力していかなければいけない時期だというのに。
クソッ……クソックソッ糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞ッ!!
だが、僕は解っていた。
その憎しみが、彼女への愛の大きさの裏返しだと。
要するに、僕は寂しくなったのだ。
そして、その寂しさを忘れようと、僕は仕事に埋没した。
それからの日々はよく覚えていない。
無我夢中で仕事仕事仕事仕事、また仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事。
休みもろくに取らず。睡眠も食事もろくに取らず。毎日毎日異常な生活を過ごした。
当然、身体が耐えきれるわけもなく――僕は倒れた。
搬送先の病院で僕は目を覚ました。
僕の担当は、年老いた年輩の医師だった。
そして僕は彼から信じられない言葉を告げられた。
/ ,' 3「……悪性の腫瘍が身体中に出来ています。
異常なほどの進行と転移速度です。恐らく、もう長くは持たないでしょう」
――嘘だ。
僕は医師に喰って掛かった。
――巫戯けるな! お前、医者だろ!? 医者なら何とかしろ!
何とかして僕を元の健康な状態にしろ!!
/ ,' 3「……落ち着いてください。お気持ちは分かりますが、ここは一度冷静に……」
――何を悠長なことを宣っているんだ! 僕はもうすぐシンデシマウのだろう!?
そんな危機的状況に陥っているのに、今更冷静になんてなれるか!
巫戯けるな! 巫戯けるな! 巫戯けるなああああああああああッ!!
それから、数ヵ月が過ぎた。
その頃には僕の身体はもう殆んど自由が利かなくなっていた。
一日中、身体中から発する異常な痛みに耐えながら、ただずっと寝たまま過ごすのだ。
もう本当にいつ死んでも可笑しくない。
僕の人生はこんな形で幕を降ろすのか。
ハハッ……なんだったんだ、僕の人生は。
僕は努力をしてきた。
そのお陰で当時は周りから白い目で見られもしたが、
それは、間違っちゃいなかった筈だ。
僕は常に正しいことをしてきた筈だ。
なのに、なのに、この仕打ちはなんだ?
妻には逃げられ、会社の方はきっと僕が不在なお陰でてんてこ舞いだろう。
僕自身は病魔に身体を蝕まれ、どんなに金を注ぎ込んでも治すことなど出来ない。
僕が死んだら、遺された会社は、そして一人残される娘は、どうなるんだ?
なぁ、どうなるんだよ?
数日後、僕は会社の部下と、
愛するただ一人の娘と未だ健在であった両親に看取られ、息を引き取った。
何かを得る為には、逆にそれと同等の代価を犠牲にしなければならないのだという。
ならば、努力という代価を支払ってきた僕が、その代償として手にいれたものは?
――さてさて、一体、なんだ?
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