さて、ここで質問
鯨(くじら)が突然学校の屋上に姿を表すことは有りうるのか?
有り得ない。この目の前の光景を見るまで彼らはそう思っていた
('A`)「虎伏野辺鯨の寄浦ってことわざがある」
( ^ω^)「日本語でおk」
('A`)「虎が海に、鯨が原野に現れるような未開の地を指すことわざなんだけどな」
( ^ω^)「ありえないお」
('A`)「だからことわざなんだっつの」
「博識ですね」
('A`)「しかも喋る鯨と来たもんだ」
( ^ω^)ノ「くじらさん、おいすー」
「おいす……? 尾、椅子?」
('A`)ノシ「どうでもいいけどどいてくんねぇか。学校祭の準備してぇんだわ」
「嗚呼、申し訳ありません。私いま動けない状況にありまして」
( ^ω^)「ってかなんでこんなとこにいるんだお?」
m9('A`)「そうだ。お前さんなんでまたこんなところにいるんだ?」
「あ、私空を飛んで旅をしているんですが、途中怪我をしてしまいまして」
('A`)「空を?」
( ^ω^)「空飛ぶ鯨かお」
「えぇ」
('A`)「……どうやって飛ぶんだ?」
「どうやって、と申しますと?」
('A`)「いや、鯨だろ? 普通海をさ迷うもんじゃないのか?」
「そういうもの……なんですかねぇ……私は86歳の時から飛べていたもので」
Σ(^ω^;)「くじらさんはお爺さんなのかお!?」
「今年で140歳になります」
('A`)ゞ「……まあいいや。で? なんで怪我したんだ」
「途中、意地の悪いカラスに襲われまして……」
( ^ω^)「大丈夫かお?」
「動くと、痛みが走りますね。それに……」
('A`)「具合でも悪いのか?」
「空腹です」
('A`)「やっぱ腹も減るのか」
「ここ数日、ろくに海に降りていないもので」
( ^ω^)「ご飯のときは海に帰るのかお?」
「えぇ、やはり長年生きても生きてる限り腹は減ります」
('A`)「何を食うんだ?」
「魚ですね」
(;^ω^)「と、共食いかお!!?」
「私は哺乳類ですよ」
('A`)「つまり飯をやって怪我を治してやらないとここをどいてくれないのか」
「いえ、怪我は2週間程度で治るでしょうけど、いかんせん空腹だけは……」
( ^ω^)「んじゃ、いまからお魚たくさん買ってくるお!」
(;'A`)「ちょ、ちょっと待て! どこにそんな金が……」
( ^ω^)つ【3万円】
(;'A`)「それは喫茶店の装飾費だろうが!」
「喫茶店? 装飾?」
('A`)「ああ、今年の学校祭は俺とブーンで喫茶店開くんだよ。この屋上で」
「ほう、屋上の喫茶店……それはなかなか良さそうですね。学校祭はいつですか?」
( ^ω^)「2週間後だお!」
「……私の怪我が治癒する時期と被っていますね。それに重ねて空腹……本当に申し訳無い……」
(σ^ω^)「大丈夫だお! ブーンに名案があるお!」
「名案……」
( ^ω^)「んじゃ、まずはたくさん魚を買ってくるお。ピラルクあたり」
「ピラルクが食せるのかはさておき、それでは装飾費が賄えないのでは……」
(;'A`)「そうだブーン。食材費は生徒会が負担するから良いとして、装飾費が無いなら…」
( ^ω^)「椅子と机だけで、十分なアイディアがあるお!」
「……?」
* * * * *
【魚】⊂(^ω^)つ【魚】「わんさか買ってきたお!」
「おお……有り難い限りです」
('A`)「いくら残った?」
( ^ω^)b「8円」
(;'A`)「おま……うまい棒も買えないじゃねぇか……」
( ^ω^)つ【魚】「くじらさん、どうぞだお」
「ありがとうございます……」
ムシャムシャ
「美味です」
('A`;)「……で? 当日はどうするつもりなんだ?」
( ^ω^)「ぜーんぶブーンに任せるお!」
(;'A`)「……」
【12日後】
「では、おいすーというのは挨拶に用いられる言葉なんですね」
( ^ω^)「そうだお!」
('A`)「……」
「ドクオさん、顔色が優れませんね」
( ^ω^)「どうしたんだお?」
('A`)「いや、学校祭はもう明後日なのに何もしなくて大丈夫なのかなって」
( ^ω^)「うーん……じゃあそろそろ用意するかお」
('A`)「へ? お前の策とやらに何か準備がいるのか」
( ^ω^)「ドクオ、バケツを用意してくれお」
('A`)「バケツ?」
「バケツ……? 何を……?」
( ^ω^)σ 「ちょっと二人とも耳を貸すお」
('A`)「すぐ返せよ」
「何でしょう?」
【学校祭当日】
('A`)「おいブーン、鯨はちゃんと朝のうちに移動したんだろうな?」
( ^ω^)「もちろんだお! ちゃんと例の……あ、客が来たお!」
生徒A「しかしドクオたちの喫茶店はやけに質素だな」
生徒B「お茶と軽食が出るだけなんてねぇ?」
生徒C「私女だけど机と椅子のみの喫茶店ってどうかと思う」
屋上の喫茶店という響きの魅力から
瞬く間に満席となり、賑わいを見せた
だが、客たちの評判は最悪であった
('A`)「みなさーん!」
生徒A「?」
生徒B「何か始まんのか?」
ざわ……ざわ……
('A`)「本日はとても良い天気です!!!」
ざわ……ざわ……
生徒C「私女だけど言ってる意味がわからない」
生徒B「なんだなんだ」
('A`)「あちらをご覧下さい!!!」
ドクオは平手を東へと向けた
生徒A「まさか晴天を見ながらコーヒーを啜れと?」
ざわ……ざわ……
生徒たちが、全ての生徒達がドクオの差す方向へ意識を向けたとき
その瞬間だった
( ^ω^)「くじらさん! 今だお!」
「おいすーっ!」
喫茶店に、大きな影が差しかかる
何か、と全員が空を見上げた
生徒A「……え? なにあれ……? 飛んでる……」
生徒B「すげぇ……」
生徒C「素敵……」
上空に、巨大な鯨が、うねりながら心地良さそうに
雲のように浮いているのが見えた
('A`)「さあ……フィニッシュだ!」
「はい!」
直後、鯨の背から勢いよく水が吹き出た
昨日ブーンとドクオが、バケツを伝って鯨の背に入れた水である
小糠雨とも、霧雨とも表現できないその心地よい雨は、人々を魅了した
生徒たち「おお……」
再度生徒たちはドクオの差す方向へ目をやる
生徒たちは思わず歓声をあげた
そこには、綺麗な虹の架け橋が架かっていた
生徒A「おお……すげぇ……」
生徒C「素敵……」
('A`)「あ、ブーン。お前店の看板立てかけてないぞ」
(;^ω^)「あ! 忘れてたお!」
『虹の見える喫茶店』
看板にはそう書かれていた
鯨は、ブーンたちにあざやかな虹と
その美しい空を泳ぐ姿を見せて、
海へ帰りました
おしまい
お題
・鯨
タイトルがなかったのでそれっぽいのをこちらでつけました
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